時宗のお経 − はじめに

時宗のお経は、「浄土三部経」と呼ばれる「無量寿経」「観無量寿経」「阿弥陀経」の3つの経典をよりどころとしています。

一般に販売されている経本『時宗勤行式』には、お経の概要と読み下し文の記載があるものの、それだけでは分かりにくい部分もあります。

お経は、唱えたり・聴いたりするだけでなく、教えの意味を理解することが大事で、信仰を深める大きな助けにもなります。そこで、私自身の学び直しも兼ねて、檀信徒の皆様向けにお経を解説してみることにしました。

時宗の開祖、一遍上人は、1289(正応2)年8月、51歳で亡くなる数日前に、持ち歩いていた一切の書物を自ら焼き捨てたと伝えられています。

そこには一遍上人のお念仏に対する深い想いが込められています。一遍上人の教えの核心は、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)という名号そのものに、すべての救いが集約されている」という点にあります。経典や難しい教学は、人々をその名号の教えに導くための方便(手段)に過ぎません。

一遍上人は、生涯をかけて「南無阿弥陀仏と称えれば、それだけで誰もが等しく救われる」と説きました。そのため、亡くなるにあたり、「すべては『南無阿弥陀仏』の六字に含まれている。自分が死んだ後、経典や書物が残れば、かえって人々は文字や解釈に捉われ、名号そのものの絶対的な価値を見失ってしまうかもしれない」と考えたのです。

「時宗のお経にはどんな意味があるのか」を考えるにあたって、このことはとても重要です。「お念仏を唱えるだけで救われるのに、どうしてお経を読むの?」と思う方もいるかもしれません。

実は、この問いの中にこそ、私たち現代人がお経を学ぶ大切な意味が隠されているのです。